2019年現在においてこそ少なくなりましたが、
その介護タクシーという名称がゆえに介護保険サービスの延長線上にある移送サービスと見込み客に受け取られ、
料金は1割負担で利用できるはずだと思いこまれていたので
基本的に実費(100%)負担です
とお伝えすると眉間にしわを寄せられたりすこし落胆の表情を浮かべる人もいました。
また、介護保険サービスの情報に精通し要支援/要介護の高齢者へ介護タクシーという移動サービスの情報提供もおこなうケアマネージャーや、
入院・退院・転院の手続きにおいて介護タクシー事業者とお客様(患者)を引きつなぐ役割をも担う地域連携室相談員などから
あそこの介護タクシーは〇〇〇円で請け負ってくれましたけど??
と料金のディスカウントありきで問い合わせしてくる動きは全国的に見られますね。
しかしながら、言われるがままに料金の安請け合いを行ってしまうと介護タクシーの価値を下げることに同意しているようなもので、
その料金設定で果たして儲けられるんですか?と問いたいのですね。
儲からなければ介護タクシーは続けられない
お客様に選んでもらわなければその日の売り上げはゼロ円です。
どの業種でもそうですが、集客が成り立つまでに相当な苦労を要します。
例えるなら6段ギヤ付きの自転車で最速スピードに到達するまでに〝始めの一歩〟のペダルがものすごく重く感じられますよね。
しかしペダルが右左と回り続けていくごとに身体にかかる負荷は軽くなっていきながら最速スピードに到達できる。
調子に乗ってペダルを漕ぐことをやめたら廃業まっしぐらになってしまいますが…(苦笑
話を戻します。
私が介護タクシー組合に加入していた時期(5年前)にも介助料金ゼロ円・運賃負担だけで活動していた同業者がいました。
ケアマネや相談員の中には「1円でも安い介護タクシー事業者のほうが利用客としても嬉しいだろう」という考えの方もいて相見積もりをとるべく各事業者へコンタクトを重ねるかたもいます。
その配慮とエネルギーは尊いものです。
しかし介護タクシー事業者の立場としては「運賃・介助料金・車椅子レンタル料」を合わせていただく根拠を、ケアマネ/相談員、お客様にはっきりと申し上げる必要があります。
なぜ介護タクシー料金は高くなってしまうのか?
高くなる理由1)
まず、我々介護タクシー事業者は「乗客がのぞむ目的地へ運んで対価をいただく」ことをビジネスとしておこなうために、国(国土交通省)からタクシー事業許可(福祉輸送限定/4条許可)をもらわねばなりません。
その許可をもらうためには〝人を運んでお金を頂く〟ための第2種自動車免許を取得してプロドライバーでなければ許可が絶対におりません。
第2種自動車免許取得にはおよそ25万円のコストがかかっています。
タクシー許可(福祉輸送限定)をもらうために必要な事業計画書の書類申請を行政書士にたのめば10万~20万の報酬を支払わねばなりません。
ちなみにタクシー事業者として登録するために3万円を国に納めなければなりません。
高くなる理由2)
外出先には階段・段差・傾斜道・凸凹路面・ぬかるみなどの物理的バリアが存在します。
障がい者への差別的な対応、高齢者ならではの特性(認知症 判断力低下etc)への理解不足により、外出したくてもこもりがちになる心理的バリアが世間にまだまだ存在しています。
福祉とは何か・介護学とはどうあるべきかを歴史と現在から学び、
介護保険制度・障がい者総合支援制度の仕組みを学び、
外出先バリアを解決するための介助スキルを叩き込んでから介護タクシー事業のスタートラインにやっと立つことになります。
これらを体系的に学ぶ介護職員初任者研修(旧・ヘルパー2級)・ガイドヘルパー資格取得には、およそ10万円が必要です。
高くなる理由3)
介護タクシー乗客の8割以上が車椅子ユーザーです。
身体の半分に麻痺を抱える方や光が見えない視覚障がい者も乗客となります。
これらの方々が「快適に・便利に・安心して」タクシー移動できるように専用設計された福祉車両と、
乗客の移動疲れを和らげる車椅子/ストレッチャー/布担架/車いすスロープetcの福祉機材でサービスを提供しなければなりません。
専用車両と福祉機材にかかるコストはざっと400万です。
※民間救急タクシーなら500万以上でしょう
コスト回収の意識がなければビジネスは破綻する
なんだか堅っ苦しい言い回しになってきまして恐縮です(笑)
でも、そういうことだと思うんですね。
その分野でビジネスを始める前には「最低限、お客様に不快な思いをさせないために」準備が必要で、それらを得るためにはお金がなければ話になりません。
お金を出してこそ、その分野の知識・見識・ノウハウをものにしようと意識が働くものですし、未成熟から基礎的姿勢へと生まれ変わります。
投資するからこそ、難儀な思いと労力が最低限におさえられて効率よくビジネスをスタートすることができます。
便利と安心と快適を乗客に約束しなければならない介護タクシービジネスでは、車いすユーザーを1分以内に乗降完了させる〝あたりまえ〟の背景にお金がかかっていることを強く認識して回収しつづける意識が大事になってきます。
その日の人件費と燃料費だけ稼げればいいや、ではビジネスは辞めた方がいいでしょう。
冒頭で述べた運賃だけいただく介護タクシー同業者は、長期的にビジネスを継続させていく意識が弱く、目先の集客だけにとらわれているのであのような発想になります。
我々はピンポイント輸送に加え、介助もおこなうのです。
そこの価値をないがしろにしてはいけないのです。
介護タクシー経営では稼ぐことにためらいをもたなくていい
そう思います。
料金の安さで支持されようと思うのではなく、
料金以上の「快適・安心・便利」に加え、介護タクシー乗務員ならではの『温もり』を届けて喜んでもらうべきです。
その報酬をいただいて事業者も共に喜びましょう。
さらなる便利・安心・快適・温もりを届けるために介護タクシー事業者は学び続けなければなりませんし、それを得るにはお金が必要なのですから。
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